出雲健康公園「出雲ドーム」整備プロジェクト001
○出雲ドームの基本計画及び技術プロデュース(回想)001-1
.jpg)
(提案コンペ最優秀案;鹿島建設グループ案 1989(H1))
出雲健康公園・出雲ドームは、自治体初の全天候型スポーツ施設として、平成元年に就任した岩國哲人出雲市長が提案され、注目を集めた施設です。出雲ドームは、平成4年4月29日に竣工式を迎え、今や出雲のシンボルとなり、市民に親しまれています。
私は、若輩ではありましたが、出雲健康公園の立地選定基準、施設の基本計画から設計競技の提案実施に関わる技術資料の作成、全体の工事監理及び管理運営計画の担当をさせていただきました。その中で、このプロジェクトは、単なる建築技術に留まらず、都市計画上の位置づけや景観形成、公園施設のあり方においても、新しい展開へと繋がった計画ではなかったかと考えています。
出雲ドーム本体の設計は、設計コンペにより、日本大学の斎藤公男+鹿島設計エンジニアリング総事業本部(建築;尾崎 勝、構造;播 繁)によるものであります。私は、市側の技術責任者として、建築、造園、設備等の専門家と設計調整を図りながら、PM(Project management)の立場で業務を行いました。ここでは、その概要について触れてみます。
<事業の概要>
○健康公園 面積:8.86ha 内容:多目的広場、フレッキシブルコート、ジョギングコース、流れ・池、アスレチックス遊具(2002年サッカーワールドカップキャンプ地となったことから、それに向けて芝サッカーコート、少年野球場等が設けられ、広場の改修がされた。)
○ドーム 建築面積:16,377㎡ 高さ:48.9m 屋根:直径143m、テフロン膜
内容:野球(両翼90m、センター110m)サッカー・ラグビー・ゲートボール(20面)ほか
展示会、式典、音楽イベントなど、収容人員5,000人(グラウンドは後に人工芝化)
総事業費 68億円
平成7年10月 「都市景観大賞・景観形成部門(地区レベル)」を受賞(受賞者:出雲市)
1.技術的提案とその理由
1990年前後は、都市公園にドーム型施設設置の気運が高まった頃で、高齢化社会を迎えようとする時期でした。健康づくりへの関心の増大や、市民スポーツに対するニーズの多様化や地域の活性化を狙い、各地で全天候型施設が検討されるような時期でありました。
しかし、自治体で本当にできるのか。多くの批判がある中で、企画をする立場において、計画そのものの前提となる課題を認識し、それに基づき、次の6つ方針で取組むことで、解決を図ることを提案しました。
1)基本的課題の認識
①なぜドームなのか。→自治体ドームの目的、地方活性化に何ができるのか。将来の展望はどうか?
②公園計画において大型施設の計画は、どうあるべきか。→その規模・内容の根拠は?
③大型拠点施設の都市計画、都市景観上、どのように位置づけるのか。→施設立地の条件整備は?
④建設費・維持管理費への不安→コスト縮減、省エネルギー対策、財源確保、事業化の手法は?
⑤ドームに対する市民のニーズ、認識とのギャップをどう埋めるか。→市民参加・説明責任は?
⑥ドームの建築的課題(意匠・構造・設備)をどうするのか。→新しい技術開発は?
これらの課題に対する提案の概要は、次のものでありました。
2)技術的な提案と評価
①出雲ドームの目的と規模の提案→「コミュニティドーム」
②都市基幹公園における建築物の割合の提案→「建ぺい率20%以内の提案」
③地区景観形成への提案→「新しい出雲の地区景観形成の条件設定」
④建設費・維持管理費の縮減への提案→「省エネルギーのための基本設計指針の作成」
⑤情報公開・市民参加の手法提案→「イベントによる市民理解と定期プレス発表」
⑥新しい設計競技方式の提案→「建築家・都市計画家(造園家)・建設企業・イベント企画者の参加する事業家スタイルコンペの実施」
①について:
出雲ドームは、あくまで市民利用主体のドームであり、安価で利用できること。しかし、単なる屋根付きグラウンドではなく、光・音響・空気環境・防災等への配慮がされ、各種スポーツ利用に適していること。イベント利用に対し、持ち込み設備へのフレッキシブルな対応が、安価にできること。
こうした多用途の自治体ドームを「コミュニティ・ドーム」と定義し、計画条件の提案を行いました。
・建物は、全天候型の屋根を持つこと
・グラウンドは、面積15,000㎡程度であり、屋外球技に対応できること。
・用途は、主目的を明快にし、かつ多用途にもに展開が可能であること。などであります。
②について:
それまでの都市計画公園では、許容建築物面積は、通常敷地面積の2%まで、特例として7%のものもありましたが、ドーム型の施設は想定されていませんでした。出雲健康公園の場合も、このことは重大な問題であり、都市計画公園としての決定を見送り、単独起債事業(地方交付税措置あり)として、事業化しました。公園とドームの規模を決定するためのシュミレーションを行って、20%の建ぺい率を最大として求めました。これを用地選定の根拠とし、評点評価方式により、現在の位置を決定したものです。
その後、平成5年に建設省(当時)で都市公園施設の設置基準の改定があり、建ぺい率は、最高22%となりました。
③について:
景観に配慮した設計方針と周辺地区の景観誘導の方針を作成しました。
・出雲の風土、自然を配慮した公園・建物の配置(築地松や屋敷林、緑の土手等の防風対策)
・出雲らしい地域精・歴史性を生かす設計(木造り、出雲行灯など)
・周辺地区における建築物・工作物(看板)などの高さ・色の基準設定等を提案
④について:
省エネルギーと人と環境にやさしい設計提案を求めました。
・公園やグラウンドの散水(地下水)に雨水の利用
・自然換気と自然採光の利用(テフロン膜)
・多様なエネルギー源の利用(深夜電力利用等)
・わかりやすく使いやすい設備で、専門オペレーター無しで利用できるシステム(スコアボード等)採用
⑤について:
当初から建設反対の意見が多く、マスコミからは、疑念の声が大きく取り上げられました。そこで、計画時から完成まで、定期的な報道発表を企画し、情報の公開を行いました。また、岩國市長の発案もあり、建設途中で各種の市民参加イベント(見学会・展示会(木材や機材)・子ども写生大会・上棟式・マウンド開き、タイムカプセルほか)を関係者の理解を得て実行しました。このことは、極めて意義があり、その後の利用促進やサポートにつながったように思います。
⑥について:
大型プロジェクトの実施向けた設計には、あらゆる英知を結集する必要がありましたのでの事業家スタイルコンペの提案をしました。私の恩師(故 木島安史当時熊本大学教授)からのアドバイスを受けて、コンペ要項をまとめましたが、同時にVEの観点や公共工事の多様な発注のあり方、先導的な取り組みとして、評価を受けましたが、日本でも初めてのケースではなかったかと思っています。なお、このコンペの記録は、本にまとめたものが出雲市中央図書館に所蔵されています。
出雲健康公園・出雲ドームプロジェクトは、多くの技術関係者の努力はもとより、多くの市民に支えられて実現したことは事実であります。当時お世話になった方々を思い出しつつ、改めて深く感謝申し上げます。
さて、出雲ドームは、東京オリンピック2020年の年には、着工から30年を迎えることになります。今後は、関係者の皆さまが、出雲ドームの利用実態や維持管理上の課題を明確にしながら、次の世代に確実につないで行ってくれることを願っています。
.jpg)
出雲ドーム内観(竣工時 現在は、人工芝張り))
出雲文化伝承館プロジェクト002
○斐川町江角邸の移設について(回想)002-1
準備中
○独楽案の復元について(回想)002-2
1.jpg)
独楽案と露地の復元図
準備中
出雲市景観整備事業003
○都市景観整備について003-1
都市景観整備について関心を持ち、その実現に向けて少なからず努力してきたつもりでありますが、昨今の出雲の街の状況をみるにつけ、出雲らしい景観が喪失されていることを極めて危惧しています。
特に、地元の商店が消え、郊外型全国チェーン店が進出する中で、目立てばいいというような建物や住宅においてもい出雲の風土気候とまちあわない形態のものが多く、控えめな落ち着いたデザインが連なる出雲独自景観が追いやられているように感じます。誰しも出雲の美しいの景観の保全への理解しつつも、残念ながら自分の行動が、保全に結び付いているのかは、疑問を持つところでしょう。
.jpg)
さて、出雲市は平成元年に全国に先駆けて「出雲市まちづくり景観条例」を制定しました。平成2年(1990)には、「出雲市景観整備基本計画」を作成し、市民・事業者・行政が努力していくことを決めています。
その作成やその後の景観形成地域の指定に携わった者として、都市景観の整備について、私なりに強く意識していたことがありました。それは、今でも十分考慮すべきことであると思いますので、次の4つの順で話してみたいと思います。
(1)景観整備の課題の把握と視点
(2)景観構造と景観要素
(3)景観整備の基本方針と取組み
(4)今後について
(1)景観整備の課題の把握と視点
東京農業大学学長をされた進士五十八(しんじいそや)氏は、景観づくりは、「行政内部の総合化と市民・民間との共同作戦であり、重要なのはゴールのイメージを明確にし、確認しあうこと」と指摘しています。
1970年代後半に横浜市の都市景観条例が制定されて以降、景観行政への各自治体の取組がみられるようになりました。そして、国において景観法が制定されたのは、平成16年ですがら、30年余りの歴史があるわけです。出雲市では、平成元年からでありますので、早くから取り組んだほうです。出雲市では、当時、都市の骨格が変わるような各種大型事業が始まっており、都市が大きく変化する時期で、景観づくりへの関心も高まっていました。
また、この頃からアーバンデザインの手法による道路や橋の修景計画も盛んとなり、CADによるCG技術の進歩は、飛躍的に景観シュミレーションを容易にしました。こうした技術の進歩に呼応して、市民の景観や公共プロジェクトに対する要望や比較検討の意識も格段に高くなりました。
景観整備、街づくりは、もはや一部の専門家や事業主体者・行政担当者のものから大きく変わっています。それを認識し、謙虚に受け止めると同時に、その課題の把握のためには、次の6つのことを意識する必要があると考えています。
① 都市のあるべき姿があるのか。(わかりやすい街づくりの理念)・・・フィロソフィ
② 景観整備のための戦略的事業を持っているか。(地域の特性を生かすこと)・・・プロジェクト
③ 土地や建物等の誘導手法を持っているか。・・・コントロール
④ 環境設計等を進めるための専門家が関わる体制になっているか。・・・オーガナイゼイション
⑤ 経営的視点、技術的視点で調査や評価ができるようになっているか。・・・リサーチ
⑥ 景観学習や環境教育など補完的な計画を持っているのか・・・ソフトプランニング
これら6つは、基本的な課題把握のための視点であり、地域の実情に即して見極めていくことが、大切であり、また、最初に行うべきことであると考えます。
(2)景観構造と景観要素
都市には、歴史的・自然的・文化的な様々な要素があります。都市景観を視覚的に把握する場合、景観構造と景観要素が挙げられます。
都市の形態的な構造を決めているものとして、大景観すなわち地形や自然景観、都市のインフラがあり、そして、それらの中に地域の個性や魅力をつくる景観要素があります。
景観要素を考える場合には、ケビン・リンチがその著書「都市のイメージ」でエレメントとしてあげた分類があります。
①パス paths (道路や川)
②エッジ edges (縁、境界)
③ディストリクト district (地域、生活ゾーン)
④ノード nodes (結節点、交差点)
⑤ランドマーク landmark(目印)
この分類による景観要素とその都市における特性をクロスさせて評価させることで、景観整備のポイントが明確になります。
(3)景観整備の基本方針と取組み
景観整備は、言うまでもなく、優れたものを<保全>すること、手を加える<修景>こと・新しい要素を<創造>することです。これが基本です。また、道路等の公的領域と住宅等の私的領域との間にある境界(セミパブリック)領域の整備やその誘導策も重要なところです。
そして、基本方針として、市民・事業者・行政・専門家に求められるものは、それぞれに次のことがあると考えます。
<市民・事業者>
・日常生活での景観への気配り(建物・外構・看板等)
・景観整備への理解・協力・景観整備活動への参加
<行政>
・公共施設における景観へ配慮した設計の推進
・わかりやすい住民への情報提供・PRの推進
・景観整備への誘導策(地区計画・景観形成地域等の指定、緑化措置等)
<専門家>
・景観整備への積極的提言
・市民と行政の橋渡し・働きかけ(コーディネイターとしてのワークショップなどの企画実施等)
(4)今後について
景観整備の具体的な取り組みは、様々な視点で考え、一つ一つ丹念にかつ粘り強く行っていくことが重要となります。景観整備は、「単なるデザインにととまらず、人々の生き方、まちづくりの理念、地域産業の活力、交流を生み出すために深くかかわっている。」と思います。
景観整備は、第一ステップの道路や橋の修景検討から、街全体の課題と認識し、景観法に基づく整備の第二ステップに入っていると思います。これからは、まさに市民への浸透と広域展開に向かう第三ステップに入らなければなりません。出雲市も広域合併し、10年が経ちます。先に述べたような視点で、再度街づくりを見つめ、取り組んでいって欲しいと思います。
幸いにも出雲は、懐の深い大景観を持ち、私たちはそれに抱かれた心を感じているはずです。その大景観の中にあって、私たち自身が一つ一つの景観要素を造っていることを意識して、努力しなければならないと思うのです。